アキレス腱断裂の記録

理事 髙橋 美枝

 8月17日の日曜日。空手の稽古中に、左足から「バン!」とすごい音がして、アキレス腱を断裂しました。最初、床がぐにゃぐにゃしていて変だと思ったら、ぐにゃぐにゃしていたのは自分の足でした。直後から全く踵を床につくことができず、段々と痛くなってきて、すぐ激痛になりました。
 日曜日で診てくれる病院も少なかったけど、道場の皆様が一斉に協力してくださり、何とか救急外来にかかることができました。道着のままで病院に運んでもらい、そのまま自宅まで送っていただいて、自宅に入るための5段の階段を旦那の肩に掴まりながらヨロヨロと昇り、どうにか自宅内にたどり着き…
ここから片足生活のはじまりで、人生初の松葉杖を体験。手術室がすぐに取れず、手術はそれから5日後でした。
【手術と入院】
 2名の個室だったけど、隣のおばあちゃんは翌日退院していき、完全個室状態で4日間過ごしました。
 午前中の手術で、全身麻酔。麻酔はかかるときも、醒めるときも、頭がぐらぐらして、吐き気がして気持ち悪かったです。気管挿管のために上唇も切れてしまったようで、術後、口の中には血の味が広がっていました。手術直後は絶対安静4時間。ベッド上から全く動けない。トイレもダメ。
 動かない、というのが一番辛かった。この時間が一番しんどかったかもしれない。
 食事の内容はちょっと残念だったけど、上げ膳据え膳。こんなに楽にしていていいのか。とにかくいつも動きまくっていた毎日から、急ブレーキをかけられたような日々。看護師さん、ヘルパーさん、お医者さんも、みんな感じが良く、嫌な思いを一度もすることなく退院できて、本当にありがたいことでした。
【退院後の日常生活】
 買い物ができない。何度かスーパーの車いすをお借りして買い物したけど、店内では「善意の目」がいたたまれなかった…みんな、私が困ったら手を貸そうとしてくれているのがものすごくよく分かったのですが、旦那が近くにいるときはいいけれど、一人で買い物しているとき、少しモタモタしていたら、こちらの了承を得ずに「押しますよ!」と言って、急に車いすを動かされたときは、恐怖を感じました。それ以来、一人で車いすでの買い物はあきらめて、ネットスーパーを最大活用することに。
 松葉杖も、全然早く動けない。中学生くらいの子はいとも簡単そうにひょいひょい歩いていたのに、私ときたら。
 一歩一歩に時間がかかり、地を這うような歩き方。いつか慣れればあんなに動けるようになるのかと、ギブスでも元気いっぱいの学生さんを見て、不安になったりしていました。
【仕事についての気づき】
 私の仕事は、居宅介護支援です。何かしらの理由で要介護状態になった方たちの在宅生活を支援するお仕事をさせていただいています。今回動けなくなった体験を通して「自分のことは自分でやりたい」という強い気持ちが、人にはあるのだということを、まざまざと体験することができました。
 自分が逆の立場であれば、なにも気にすることなく手を差し伸べたくなるし、相手に気にしないでもらいたいと思っているけど、じゃあ逆に、自分がしていただく側になったときは、気持ちよく受け取ることができるでしょうか?というのが、今回、私が与えてもらった経験のような気がします。

 利用者様のために様々な提案をし、ヘルパーとして手を差し出しても、拒否し受け取らない利用者様もたくさんみてきました。
 自立支援とはなにか。という体験を、少しだけさせていただけたこの機会。まだまだリハビリ中で、片足の装具を外せない状況が続いている中で、日々、たくさんの方の善意に触れ、感謝の気持ちを感じない日はありません。と、同時に、どうしても「申し訳ない」「私のために、時間と手間を取らせてしまい、ごめんなさい」という気持ちが、ずっとあります。
 単純に「受け取る」ということは、私にとっては難しいことでした。感謝や自己否定、自立心がない交ぜとなった、マーブル模様の感情です。ただ、割合として考えたら「感謝」が一番を占めています。
 こんなに良くしてもらっていいのかな。なんでみんな、こんなに良くしてくれるんだろう。と。
 道場の皆様、職場の仲間、家族。仕事も運動も全部一生懸命やりたくて、怪我をしてしまってごめんなさい。おかげでなんと自分が恵まれた環境にあるのかということを、確認することができました。
 ありがとう。ありがとう。本当にありがとうございます。